2011年07月07日

ふたつの不耕起栽培。


この辺りはタマネギとコムギの産地。ウチの周りのいくつかの大きな畑でも、農家さんが何haもタマネギやコムギを育てています。

タマネギ畑.JPG

見渡す限りのタマネギ畑・・・草1本も生えていないかのような、ひたすらタマネギという植物のみを存在させようとする土地。
そんな景色は、いくら緑色をしていようと、今の僕の目には“砂漠”のようにも見えてしまいます。けど、今の社会で日本の農家さんが日本人の食べるタマネギを安く作ろうとすれば、仕方のないことだとも思うのです。

草は枯らし、タマネギだけを存在させれば、当然タマネギを糧としたい虫や細菌ばかりが大勢集まってくるだろうから、それらを駆除するための“クスリ”は不可欠。
実はこれを書いている今現在(7月7日の午前6時)、お隣の人のいいオジサンが重機に乗ってタマネギにクスリを散布しているのでした(本当に今この瞬間に)。僕はそれを見ながらコレを書いています。

RIMG0282.JPG

タマネギ畑にクスリを撒いているのは彼の行為。彼の選択です。
けど、たぶん彼は、概ね敷かれたレールに乗って動いているに過ぎないですよね。
農家を生業とするのも、タマネギという換金作物を育てるのも、そのためにトラクターに乗るのも、クスリを撒くのも、たぶん彼は積極的に選択してはいないのだと思います。
それ以外の選択肢は、たぶんオジサンにはほとんど存在しなかったのではないでしょうか。

彼にタマネギを作らせクスリを撒かせているのは、日本の社会であり、僕たち消費者なのです。
まず、そのような認識に立っていたいと思います。



そして、コムギ畑。

目の前の小麦畑で異変が起こっています。



2週間ほど前のことだったと思いますが、コムギが急に枯れ始めたのです。
ちょうど、穂をつけ始めた頃だったと思います。その数日前に重機が入り、何かを撒いているのを目にしていました。僕は、クスリか肥料を撒いているんだろうな、と思っていました。
そして、数日後のコムギの枯死。もちろん雑草たちも同時に枯死しています。

そうそう、重機が入った後に「何をやってたのかな」と不思議に思って地面を見ると、やたらと大豆が落ちていたのも覚えています。
「何なんだ?!」
「コレ、肥料にするのかねえ?」
ますます不可思議に感じていたので、よく覚えています。



そして、やがて雑草が枯れ、コムギが枯れ・・・・・
今その畑で、大豆が発芽し始めました。

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そういえば数週間前に地域の飲み会があった際、この辺りの農家さんで“不耕起栽培”を始める人がいる、って聞いていました。
「へえ、自然農をするのかなあ」と、その時は思っていました。

一方、ラウンドアップを使っている人がいるのも、耳にしていました。
モンサント社の除草剤・ラウンドアップについての知識は多少はありましたから、「こわいなあ」と思っていました。



すべてが繋がりました。



おそらく、目の前の畑のコムギは「モノにならない」と判断され、ラウンドアップで雑草もろとも枯れさせられたのでしょう。
そして、同時にその畑には、ラウンドアップレディの大豆が播かれていたのでしょう。
アメリカでよくやられている“不耕起栽培”です。



世界的に見て、不耕起栽培は、日本での“自然を手本とした栽培”で“土の中の生き物を殺さず、土壌の生態系を崩さない”ために行われる技術ではありません。
単に、超広大な土地を機械で一気につくるための、ものすごく合理的な技術です。
だから除草剤も殺菌剤・殺虫剤も不可欠。
タネも除草剤もプロペラ機からばら撒き、畑に降りるのは収穫の時だけ、なんて光景も映像で見たことがあります。

そんな不耕起栽培を北海道でも実践したい人が少なからずいることは知っていました。
TPPなど貿易自由化が進むのに備えて「競争力のある農業を!」と超大規模な農家を行政も推奨しているみたいですし。

目の前で行われているのは、“最先端の農業”なのでしょう。



ちなみにラウンドアップはアメリカの農薬会社モンサント社の商品。強力な除草剤です。安全性については、もちろん企業側は無害を主張しますし、反対側は研究結果として有害性を訴えています(インターネットでいくらでも情報は得られますから、ここではそのあたりは省きます)。

そして、ラウンドアップレディというのもモンサントの商品で、こちらはラウンドアップに耐性を持つ作物種子です。
ラウンドアップはあまりに強い作用を持つため、雑草だけでなく農作物も枯らしてしまうのです。それでは困るので、ラウンドアップへの耐性をもつ作物をつくったわけです。
たしか、ラウンドアップの主成分グリホサートに耐性を持つ細菌の遺伝子を組み込んだものだったと思います。

つまり、モンサントでは、皆殺しにできる除草剤とその除草剤で死なない作物種子を抱き合わせのようにして売っているのです。



ラウンドアップの人体や環境への安全性(というか危険性)についての議論はちょっと横に置いておくとして、それ以上に考えなければならないのが、企業の農業支配であり食糧支配の問題だと思います。
実は、農薬の問題を考えるときそちらの方が重大な問題じゃないか、と僕は思っています。

よく聞く話としてはこんな例があります。

アフリカやアジアの貧しい農村にある日モンサントの営業マンがやってきて、サンプルを置いていく。
魔法のように草を枯らす除草剤とその除草剤で死なない作物のタネ。
「これはサービスです。ちょっとお試しください。今年お試しいただいて、良ければ来年以降お買い上げください」
使えばもちろん効果はてきめん。今までの苦労が嘘のように、簡単に収穫できる。
「こりゃあ買うだけの価値はある」
と、借金をしてラウンドアップとラウンドアップレディを購入。秋には収穫した作物を売って現金を得、借金を返して新たに次の年の除草剤とタネを購入。肥料や大型機械も借金しながら購入。
でも、たくさん採れるから作物の価格は下がって、う〜ん、借金返済はちと厳しいか。
え?ラウンドアップレディは買わずに採れた作物の自家採種すればいいって?
いやいや、モンサント社は特許を取っていますから、そんなことをすれば訴えられてしまう。
それに、そのタネには“自殺する遺伝子”が含まれていて、採れたタネでは発芽しないようにセットされている。
仕方がないから、農民はラウンドアップとラウンドアップレディを買いつづけるしかない。
借金で首が回らなくなれば、土地を売って大きな農場の労働者となればいい。
大きな農場は、ますます大規模化して、モンサントの下請けのように食糧を作り続ける。
かくして、世界の食糧事情はモンサントら企業の掌中に・・・。



なんて話は、けっして作り話でなく、現実で起こっていることのようです(ちなみにモンサントの遺伝子組み換え作物の世界シェア率は90%)。

そういう社会の構造への問題のほかにも、当然、自殺する遺伝子が在来種と交配した時にどうなっていくのか、とか、ラウンドアップが効かないスーパー雑草が出てきたときの対応とか、環境や生態系への影響も想像すると恐ろしいことが多いですよね。
(まあそもそもクスリなんてのは、雑草や病害虫の側から見れば、それに耐性を持つ生物を生み出す“進化のきっかけづくり”の為にあるようなものですから。耐性を持つ生物が出てくればさらに強力なクスリを作り出す・・・イタチごっこですよね)



ともかく。

ほとんど不耕起&自家採種&無肥料の大豆と別な思想の不耕起栽培ラウンドアップレディ大豆がすぐ隣の畑で栽培されているってのも、なかなか興味深い話です。

隣の畑がどうなっていくのか、日本の、そして農業がどうなっていくのか、世界の経済がどうなっていくのか、生態系がどうなっていくのか、いろんなことに目を配りながら、精一杯想像力を持って、自分の畑の大豆を育てていこうと思います。



でもさ、自分の育てている作物を除草剤で枯らしてしまうってのはどんな気分なんだろう・・・?

僕は、こんなふうに虫に喰われても何とか生き延びる1粒の大豆の生命力に目を凝らす日々が好きだけどさ。
こんなの彼らから見たら、遊びにしか見えないんだろうな。
RIMG0223.JPG

そういや、その目の前の畑にラウンドアップを撒くときに、僕が播いた小豆を重機で踏みつけていったんだよなあ。
僕には、そんなことが平気な感覚になっていくのが“最先端の農業”なんじゃないかって気がしてならないのです・・・。

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posted by 野良人イトウ at 08:35| Comment(1) | 栽培 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
面白かったです。
Posted by ねこ at 2022年02月25日 06:11
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